犬の飼い方(いわゆる「しつけ方」)を学べる本を2冊、紹介します。
「困った行動」がなくなる 犬のこころの処方箋, 村田香織, 青春出版社, 2022.
犬の問題行動の教科書 “動物の精神科医”に学ぶ犬と人の絆の科学, 奥田順之, 緑書房, 2022.
「処方箋」は2022年3月に、「教科書」は2022年8月に出版された、どちらも新しい本です。私は「処方箋」は書店で見つけて紙の本として購入、「教科書」はネットで知って電子書籍(Amazon Kindle)で購入しました。
共通点いろいろ
飼い犬の問題行動、つまり、吠えるとか、人に噛みつくとか、トイレがちゃんとできないとか、そういう悩みに答える、いわゆる「犬のしつけ方」についての本はたくさんあります。以前は DOG SIGNAL というコミックもご紹介しました。
この記事で紹介する2冊には興味深い共通点がたくさんあります。まず「犬の心の病」として問題をとらえています。
- 犬の問題行動に向き合う「動物の精神科医」(教科書)
- 問題行動は愛犬の「こころの病気」のせい(処方箋)
どちらも著者は「獣医行動診療科認定医」、まだ日本では少ないらしいのですが、行動学を専門とする獣医師の方です。いずれもコロナ禍でオンライン対応などの取り組みもされているとのことです。
どちらの本も「アニマル・ウェルフェア=動物福祉」の考え方を紹介しており、「人がかかわるすべての動物が幸せである」ことを具体化した「5つの自由」を解説しています。
「犬についての科学的な理解」も共通の前提です。
- 犬の生態学・行動学の基本的な知識をできるだけわかりやすく(教科書)
- 犬という動物を理解し、犬を犬として愛し、良い関係を築いて双方が幸せに(処方箋)
ただし専門家ではない人が読みやすいように配慮されており、例えば「処方箋」では科学的な知見を「犬の本音」と表現したりしています。
問題行動を「心の病」と表現しつつ、どちらの本も、それが「人間の一方的な見方に過ぎない」ことが出発点です。
- ペットの問題行動は「人にとって不都合な行動」(処方箋)
- 「飼い主や社会が許容できない行動」=獣医臨床行動学の定義(教科書)
それぞれの本の特色
犬のこころの処方箋
こちらの本はこういう構成です:
- 問題行動の背景
- 問題行動への対応方法
- トレーニングとセラピー
- 動物福祉
「セラピー」という表現が工夫されているな、というのが最初の印象でした。かわいそうな「しつけ」はしたくない、「しつけ」という言い方に抵抗がある、という人は多いと思いますが、「セラピー」なら受け入れられると思います。心の病だと言われることに、人間もだんだんショックを受けなくなってきた昨今の状況だからかも知れませんが。
この本には、飼い主が自分でできる具体的な方法が豊富に書かれています。ところどころに出てくる4コマ漫画やイラストに加えて、掲載されたQRコードから YouTube の動画を見ることもできます。タイミングや声のかけ方などは読んだだけではわからないので、ありがたいですね。
また「排泄物を片付けるときの魔法の言葉」など(言ってしまうと科学的であることにこだわらずに)飼い主の心情に寄り添ったノウハウも書かれています。
まとめると、内容が科学的で信頼できるし、とっつきやすくて実践しやすい、そんな本です。
犬の問題行動の教科書
こちらはこういう構成です:
- 動物福祉
- 問題行動の分析と理解
- 問題行動の予防・診断・治療
副題に「絆の科学」と書かれていることからも、科学的に向き合うことの重要性が強調されていると感じます。
「処方箋」と異なり「教科書」では「動物福祉」は最初に「取り組みの前提」として紹介されています。
理屈を学んで納得できないと実践できない、という(私のようなタイプの)人には向いている本です。
なぜトレーニングをするのか。当たり前すぎたのかもしれない「基本」を言葉で説明してくれる本には、たしかに出合ったことがありませんでした。
問題行動の原因は、育児と比較するなどわかりやすく書かれつつ、深く考察されています。
問題行動の予防については、体系的に説明されています。それに続く診断と治療の章は専門的な言葉も交えて書かれています。獣医師に相談するべき深刻な事例かどうか、悩んでいる人の判断にも役立ちそうです。
まとめると、獣医臨床行動学ってこんな分野なんだろうな、と興味がわいてくる「教科書」です。
個人的なまとめ
どちらの本も「問題行動」の「予防方法」がきちんと書かれているので、いま問題行動で悩んでいないという飼い主さんにも役立ちます。
学んでみると、実は「問題行動が起きている」「愛犬がストレスを抱えている」といった状況に気づけるかも知れません。
私は「処方箋」を先に読みました。書かれていた「セラピー」のひとつはずっと実践しています。
その後「教科書」を読み、前述のようにいろいろ気づきを得たり、刺激を受けました。
いま、この記事を書くために改めて「処方箋」を読み返して、もっといろいろ実践してみようか、という気持ちになっています。