見えないリード~現代の寓話~

イラスト「見えないリード~現代の寓話~」

むかしむかし、あるところに「オオサマ」という名前のフレンチブルドックがいました。オオサマは、とても自尊心の高い犬で、いつも自分が一番だと思っていました。

オオサマのママは、オオサマをとても大切にしていましたが、一つ困ったことがありました。それは、オオサマが散歩中に他の犬に吠えたり、急に走り出したりすることでした。

「オオサマったら、もっとおりこうにしてほしいわ」とママはため息をつきました。

ある日、町に新しいペットショップがオープンしました。そのお店の主人は、「どんな問題も解決する魔法のアイテム」を作ることができると評判でした。

ママはオオサマを連れてそのお店を訪ねました。

「いらっしゃいませ」と店主は笑顔で迎えました。「どのようなご用件でしょうか?」

「うちのオオサマが散歩中に言うことを聞かないんです」とママは説明しました。「他の犬に吠えかかったり、急に走り出したりして、普通のリードだと引っ張られて大変なんです。何か良い方法はありませんか?」

店主はオオサマをじっと見つめ、微笑みました。「なるほど。実は多くの飼い主さんが同じ悩みを抱えていらっしゃいます。特に、このような気品のある犬は、普通のリードを嫌がることがあるんですよ」

「まさにそうなんです!オオサマはいつも首輪やリードを嫌がるんです」とママは共感しました。

店主は声をひそめて言いました。「それでは、あなたのために特別な『見えないリード』をお作りしましょう。このリードは特別な糸で編まれており、感受性の高い人や優れた犬にしか見えないのです。見えないので、オオサマも嫌がらず、でもちゃんとコントロールできるんですよ」

「まあ、すごい!」とママは驚きました。

店主は続けました。「それだけではありません。このリードをつけた犬は、賢いということを周りの人に示すことができるのです。まだ気づいていない人や、犬のことをよく知らない人には見えないので、あなたとオオサマの特別さが伝わるでしょう」

ママはその話に大喜びしました。「ぜひ作ってください!」

ペットショップの場面のイラスト

数日後、ママとオオサマは「見えないリード」を受け取りにお店に行きました。

「はい、できあがりました」と店主は手振りをしながら言いました。「見えますか?素晴らしい素材で作られていますよ。」

実際には何も手に持っていませんでしたが、ママは恥ずかしくて「見えない」とは言えませんでした。

「ああ、もちろん見えますとも!なんて美しいリードなんでしょう!」とママはつい話を合わせてしまいました。

店主はオオサマの首輪に「見えないリード」を取り付けるふりをしました。「これで完璧です。これからは散歩も楽になりますよ。」

「ありがとうございます!」とママはお金を払い、オオサマと一緒に帰りました。

翌日、ママはオオサマを連れて公園へ散歩に行きました。「見えないリード」をつけているという自信から、ママはいつもより堂々と歩いていました。「これで他の犬に吠えても、急に走り出しても大丈夫」と思ったのです。

公園ではアンナというシーリハムテリアとそのパパが散歩していました。

「あの……リード、ちゃんとつけてますよね?」

アンナのパパは少し困ったように言いました。

「ええ、特別な見えないリードなんですよ。感受性の高い人と犬にしか見えないんです」とママは自慢げに言いました。

アンナのパパは返す言葉に困り「なるほど…素晴らしいですね」と言いました。

アンナはオオサマを見て、「リードなんて見えないけど、あの人が言ってるなら本当なんだろうね。私に見えないってことは、まだまだ未熟ってことワンか?」と言いました。

次に、ハコというネコと飼い主が通りかかりました。

「すごいリードですね」とハコの飼い主は言いました(実際には何も見えていませんでしたが、見えないと言いにくかったのです)。

ハコはクスクス笑って、「あのフレンチブルドックの首輪に何もついてないのに、みんな見えるふりをしてるニャ。人間ってほんと、不思議なところがあるニャ」と言いました。

フクというもう一匹の猫も通りかかり、「なんだか変だニャア。あんなものないのに、みんな見えるふりしてるニャア」と言いました。

植木鉢に入ったサンスベリアのサンスも、窓越しにこの様子を見ていました。「みんな本当は気づいてるけど、言いにくいんスね。不思議な光景ッス」

そして、その日の午後、オオサマは公園で他の犬に吠えかかり、見えないリードなどなかったかのように、勢いよく走り出してしまいました。

「オオサマ!戻ってきなさい!見えないリードがあるでしょう!あのリードならオオサマも嫌がらずに言うことを聞くはずなのに!」とママは叫びましたが、もちろんオオサマは止まりませんでした。

周りにいた人々は、この光景を見てざわつきました。「危ないですよ!」「リードをつけてないなんて…」という声があがりました。

恥ずかしくなったママは、やっと本当のことを認めました。「そうですね、実際にはリードはありませんでした。私、ちょっと見栄を張ってしまっていました。」

その瞬間、オオサマは走るのをやめて、ママの元に戻ってきました。まるで、ママの正直さに応えるかのようでした。

それから、ママはオオサマのために本物のリードと、きちんとしたトレーニングを始めました。誰かに「すごい」と思われたいという気持ちではなく、オオサマの安全と安心を心から願って。

アンナが言いました。「本当のつながりは目に見えなくても、心で感じるものだワン」

ハコがうなずきました。「そうだニャ。見栄を張るより、正直な方がみんな幸せになれるニャ」

フクも加わりました。「ニセモノよりホンモノの関係が大事ニャア」

サンスも窓辺から声をかけました。「一番大切なものは目に見えないッス。でも、リードはちゃんと見えるようにしておいた方が安全ッス!」

こうして、オオサマとママは「見えないリード」ではなく、目に見える愛情と信頼で結ばれるようになりました。そして、それが本当の絆だということを学んだのでした。

おしまい

※犬の散歩中には必ずリードをつけましょう。