散歩の途中でアンナが突然立ち止まりました。
(ピタッと静止して)この匂い、見逃せないワン…!
(困惑して)アンナ?また止まるの?他の犬のマーキングの確認をしたいのかな?
大切な匂いを逃したら、もう二度と会えないかもしれないワン!
(アンナを撫でながら)そっか、アンナはチャンスに執着しているんだね。パパがオンライン会議の時間を守ろうとしたり、面白い投稿をブックマークしたり、そんな感じなのかな。
(いわゆる「猫テレビ」つまり、窓の外を見ながら)そろそろパパとアンナが散歩から帰ってくるニャ。
アンナはなにかを大切にしようとして、執着してるんだニャ。僕もおやつにつられてパパやママに従うことはあるニャ。
ハコはこだわるものがなく、流れに身を任せてる感じがするニャア。
犬は執着すると時間が止まるニャ。それが「犬の時間」だニャ。
犬が立ち止まって見ているものは、人には見えないニャ。だから人は犬を「人の時間」に従わせようとするんだニャ。
「猫の時間」はそのどちらとも違うニャ。私は、なにかの匂いがすればそれを受け入れるニャ。去る者は追わないニャ。
僕が布をかじってしまうのは、暇つぶしだニャ。今この場所が心地よければそこにいて、違う場所が気になれば移動するニャア。
見逃すことも、出会うことも、全て時の流れの一部ニャ。それが「猫の時間」だニャ。
ハコとフク、ただいま。アンナ、今日の散歩はあちこちで止まってばかりだったね。
パパには分からないかもだけど、今日はすごく大切な匂いがしたワン。昨日はなかった匂いワン。
人の時間は、いつも前に進もうとするニャ。
でも、時には立ち止まることにも意味があるニャア。
(考え込んで)そうか…僕は「人の時間」の中で、ただ前に進むことだけを考えてたんだな。
翌日の散歩
(急に立ち止まって)あ!
(今度はリードを緩めて)…大切な匂いがするの?
(驚いたように振り返って)パパ、分かったワン?
ううん、何の匂いかは分からないよ。でも、アンナにとって大切な時間なんだね。
(嬉しそうに)そうだワン!すごくいい匂いワン!誰かが幸せな匂いワン!
パパには、その「幸せな匂い」は感じることができないよ。でも、アンナと一緒に立ち止まることで、見過ごしていた景色が目に入るよ。
午後の陽射し。風に揺れる葉っぱ。道端の小さな花。
ただいまワン!
パパたちが帰ってきたニャ。パパは理解しようとするのではなく、待てるようになったニャア。
人の時間の流れを、少し手放せたんだニャ。
理解できなくても、共有できる時間があるニャ。
犬の時間、猫の時間、人の時間、お互いに大事にしながら暮らしていきたいワン!